東京高等裁判所 平成5年(ネ)2023号 判決 1993年12月20日
控訴人・附帯被控訴人
株式会社新潮社
右代表者代表取締役
佐藤亮一
控訴人・附帯被控訴人
後藤章夫
右両名訴訟代理人弁護士
多賀健次郎
同
林國男
同
鳥飼重和
同
舟木亮一
被控訴人・附帯控訴人
甲野花子
右訴訟代理人弁護士
小松正富
同
永山忠彦
同
本多清二
同
山田有宏
同
丸山俊子
同
松本修
主文
一 本件附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
1 附帯被控訴人らは、附帯控訴人に対し、連帯して金三〇〇万円及びこれに対する平成二年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 附帯控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
二 本件控訴をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その二を控訴人・附帯被控訴人らの負担とし、その余を被控訴人・附帯控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 当事者双方の申立て
一 控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)ら
1 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 右取消し部分につき、被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 本件附帯控訴をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人・附帯控訴人の負担とする。
二 被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 原判決を次のとおり変更する。
(一) 控訴人らは、被控訴人に対し、原判決別紙(一)記載の謝罪広告を、表題の「謝罪文」とある部分は明朝体一二ポイント活字とし、本文は明朝体一〇ポイント活字として、雑誌「フォーカス」誌上に縦八センチメートル、横一六センチメートルの大きさで掲載せよ。
(二) 控訴人らは、被控訴人に対し、連帯して金一〇〇〇万円及びこれに対する平成二年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は、第一、第二審とも、控訴人らの負担とする。
第二 事案の概要
事案の概要は、原判決「事実及び理由」第二に摘示のとおりであるから、これを引用する。
第三 証拠
証拠の関係は、本件記録中の原審の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所は、被控訴人の本件請求は控訴人らに対し、連帯して損害賠償金三〇〇万円及びこれに対する平成二年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度でいずれも理由があるから、その限度でこれを認容し、その余はいずれも理由がないから、これを棄却すべきであると判断する。その理由となる争点に対する判断は、「事実及び理由」第三の五の1を次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第三の理由説示と同一であるから、これを引用する(ただし、原判決一二枚目表八行目の「一二、」の次に「一七、」を加える。)。
「1 『フォーカス』が各種の媒体により広告、宣伝されて販売され、国民の間で広く講読されている雑誌であることは公知であるから、本件談話記事を含む本件記事が掲載された『フォーカス』平成二年二月二日号が広い範囲にわたって販売頒布され、本件談話記事が多くの国民の知るところとなったものと認められる。そして、前記争いのない事実並びに証人甲野良子の証言及び被控訴人本人尋問の結果によると、被控訴人は、大正一二年一一月一三日生まれの女性であるところ、右『フォーカス』が発売された二、三日後に知人から本件記事が掲載されていることを知らされてこれを読んだが、本件談話記事の内容が事実と違うため、恥ずかしさと悔しさから外出や付合いも控え、辛く、消え入るほどの気持ちで過ごしていたことが認められるから、被控訴人は本件談話記事が執筆されて掲載され、頒布されたことによって精神的苦痛を被ったと認められる。そして、控訴人らが、本件談話記事を執筆して掲載した目的は、本件逮捕監禁事件を報道するに当たり、その被害者である乙次郎の怒りの大きさを伝えることにあり、被控訴人は良子の母親として取り上げられているにすぎないことを考慮しても、本件談話記事の内容及び表現方法に、本件において認められる一切の事情を併せ考慮すると、被控訴人に生じた前記精神的苦痛を慰謝するに相当な損害賠償の額は、三〇〇万円をもって相当というべきである。」
二 よって、附帯控訴人(被控訴人)の附帯控訴に基づき、当裁判所の右の判断と符合しない原判決を主文のとおり変更し、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 櫻井文夫 裁判官 渡邉等 裁判官 柴田寛之)